ラプンツェル
012ラプンツェル
現代語訳:Relax Stories TV
「ラプンツェル」は、グリム兄弟の有名な童話で、魔法の力を持つ、長い髪を持つ少女ラプンツェルの物語です。
ある日、森の中を歩いていた王子が美しい歌声に引かれ、塔の中のラプンツェルを発見します。王子とラプンツェルはお互いに惹かれ合い、愛し合うようになります。
しかし、ラプンツェルの存在に気づいた魔女は、ラプンツェルを塔に閉じ込めます。最終的に王子はラプンツェルを救い出し、二人は幸せに暮らすことになります。
この物語は、愛と自由、そして自己の発見についての美しいメッセージを伝えています。ディズニーの映画「塔の上のラプンツェル」でも、この物語は現代的な視点で再解釈されています。
昔、あるところに、夫婦が住んでおりました。二人は、長い年月の間、子供を一人欲しいと思っていましたが、どうしても授かりませんでした。しかし、ようやく神様がその願いを叶えて下さりそうな様子が、奥さんに見えてきました。
この夫婦の家の裏側には、小さな窓がありました。その窓からは、世にも美しい花や野菜の一面に覆われた、綺麗な庭が見えました。しかし、その庭は高い塀に囲まれていました。しかも、その庭は、大変な勢力を持っていて、世間の人々から恐れられている、ある魔法使いの老婆のものでしたから、誰一人その中へ入って行こうとする者はありませんでした。
ある日のこと、奥さんがこの窓辺に立って、庭を見下ろしていますと、それはそれは綺麗なラプンツェル(チシャ)が生えている野菜畑が目につきました。見るからに、みずみずしく、青々としたラプンツェルです。奥さんはそれが欲しくてたまらなくなって、何とかして食べたいものだと思いました。しかもその思いは、日増しに激しくなるばかりでした。しかし、それがとても手に入れられないことは分かり切っていましたので、奥さんはすっかり痩せ細って、顔色も青ざめ、見る影もないようになってきました。
これを見て、亭主は驚いて、尋ねました。
「お前、どうしたんだい。」
「ああ、ああ、うちの裏の庭のラプンツェルが食べられなかったら、私は死んでしまうよ。」
と、奥さんは答えました。
亭主は、奥さんが可愛くてなりませんので、
「女房を死なせるわけにはいかない。あのラプンツェルを取ってきてやれ。どうなったって、構うものか。」
と思いました。
そこで亭主は、夕闇に紛れて、塀を乗り越えました。魔法使いの庭に入るが早いか、大急ぎでラプンツェルを一つかみ取って、奥さんのところへ持ってきてやりました。奥さんは、それで早速サラダを作って、ガツガツ食べました。ところが、その美味しいことといったら、またとありません。そのため奥さんは、その次の日になりますと、今度は、前の日の三倍もそれが欲しくてたまらなくなってしまいました。
奥さんを落ち着かせるためには、亭主はもう一度隣の庭に入って行かなければなりませんでした。そこで、またもや夕闇を狙って出かけて行きました。ところが、塀を乗り越えた瞬間、亭主は驚愕してしまいました。無理もありません。すぐ目の前に、魔法使いの老婆が立っていたのですからね。
「お前は何て図々しい男なんだい。」
と、魔法使いは亭主をぐいと睨みつけて、言いました。
「私の庭へ侵入して、泥棒みたいに、私のラプンツェルを盗んで行くとは。さあ、ひどい目に遭わせてくれるぞ。」
「ああ、どうかお許しくださいまし。」
と、亭主は答えて言いました。
「どうにも仕方なく、こんなことをしてしまったのでございます。実は、女房が、窓からこちら様のラプンツェルを見ましたんで。すると、どうしてもこれが欲しくなって、一口でも食べないことには、死んじまうなどと申すものでございますから。」
これを聞くと、魔法使いは怒りを和らげて、亭主に言いました。
「本当にお前の言う通りなら、欲しいだけラプンツェルを取らせてやろう。その代わり、一つだけ条件がある。奥さんが子供を産んだら、その子を私にくれなければいけない。その子は幸せにしてやろう。私が母のように面倒を見てやるよ。」
亭主は怖くてたまらないものですから、何もかも承知してしまいました。
やがて、奥さんが子供を産むと、魔法使いの老婆は早速やってきて、その子にラプンツェルという名前をつけて、一緒に連れて行ってしまいました。
ラプンツェルは、お日様の照らすこの世界で、誰よりも美しい子供になりました。ラプンツェルが十二歳の時、魔法使いの老婆は、この子を森の中の塔に閉じ込めてしまいました。その塔には、階段もなければ、入り口もありません。ただ、ずっと高いところに小窓が一つあるきりでした。
魔法使いの老婆が塔の中に入ろうと思う時には、塔の下に立って、こう呼ぶのでした。
「ラプンツェル ラプンツェル
お前の髪を垂らしておくれ」
と、呼びかける声が聞こえました。
それを聞いたラプンツェルが、豊かな髪の毛を下ろすと、魔法使いはそれにつかまって登っていきました。
(あれをはしご代わりにして登っていけるのなら、私も一度運試しをしてみよう。)
そこで、次の日、暗くなりかけた頃、王子は塔のところへ行って、呼びかけました。
「ラプンツェル、ラプンツェル、あなたの髪を下ろしてください。」
すると、すぐに、髪の毛が垂れ下がってきましたので、王子はそれにつかまって登っていきました。
ラプンツェルは、初めて見る男性が入ってきたので、大変驚きました。しかし、王子がとても優しく話しかけて、
「僕は、あなたの歌にすっかり心を動かされて、そのため心の落ち着きもなくなってしまったのです。どうしても、あなたに会わずにはいられなかったのです。」
と、話すと、ラプンツェルの怖い気持ちも、ようやく消え去りました。それから、王子は、
「僕の妻になってはくれませんか。」
と、尋ねました。
ラプンツェルは、王子が若くて美しいのを見て、
(この方なら、きっと、ゴーテルおばあさんよりも私を可愛がってくださるわ。)
と、思いましたので、すぐに、はい、と答えて、自分の手を王子の手の上に重ねました。そして、ラプンツェルは言いました。
「私、一緒に行きたいんですけど、でもどうやって降りたらいいのかわからないんです。これから、ここへ来るたびに、絹の糸を一本ずつ持ってきてください。それで、はしごを編みます。そして、はしごができたら、降りて行きますから、私を馬に乗せて連れて行ってください。」
そして、その時まで、王子が毎晩ラプンツェルのところへ来ることにしました。なぜなら、昼間は老婆が来るからです。
魔法使いの老婆は、そんなことになっているとは全く気がつきませんでした。しかし、ある時、ラプンツェルが何気なしに、こんなことを言ってしまったのです。
「ねえ、ゴーテルおばあさん、どうしてなんでしょうね。若い王子様よりも、おばあさんの方が引き上げるのにずっと重いわ。王子様は、あっという間に上がってきてしまうんですけどね。」
「ええ、この罰当たりめ。」
と、魔法使いは怒鳴りました。
「何てことを言うんだい。私は、あなたを世間から引き離しておいたつもりだったのに、よくも人を騙したね。」
老婆は、怒り狂って、ラプンツェルの美しい髪の毛を掴み、それを二巻三巻左の手に巻きつけました。そして、右手にはさみを取って、ジョキ、ジョキと髪の毛を切ってしまいました。ですから、美しい髪の毛は余ったまま、床の上に落ちました。
そればかりか、老婆は無情にも、可哀想なラプンツェルを荒れた野原へ追いやってしまいました。ラプンツェルはここで、それはそれは辛い、惨めな日々を過ごさなければなりませんでした。
一方、魔法使いの老婆は、ラプンツェルを追い出してしまったその日の夕方、切り取った髪の毛を窓の鍵に結びつけておきました。そして、王子がやってきて、
「ラプンツェル、ラプンツェル、あなたの髪を下ろしてください。」
と呼びかけた時、その髪の毛を下ろしてやりました。
王子が登ってみますと、どうでしょう。可愛いラプンツェルの姿は見えず、魔法使いの老婆が、悪意に満ちた、ものすごい目つきで、自分を睨みつけているではありませんか。
「はっはっは。」
と、老婆は馬鹿にしたように笑いました。
「可愛い奥さんを連れに来たのか。だがね、きれいな小鳥は、もう巣にはいないよ。歌も歌わないさ。猫にさらわれちゃったんだよ。お前も、猫に目玉を引っ掻かれるぞ。ラプンツェルはもうお前のものじゃなくなったんだ。もう二度とあの顔を見ることはできないだろうよ。」
王子は悲しみのあまり、我を忘れて、もうどうにでもなれと、塔から飛び降りました。命は助かりましたが、落ちたところに生えていたイバラの棘に目を突かれて、王子の目は潰れてしまいました。
目の見えなくなった王子は、森の中をさまよい歩きました。食べるものと言えば、木の根や草の実があるばかりでした。王子は、可愛い、可愛い妻を失ってしまったことを、ただただ嘆き悲しんでいました。
こうして、王子が惨めな思いをして、二年、三年とさまよい回った挙句、とうとう、あの荒れた野の中へ迷い込みました。こここそ、あのラプンツェルが、自分の生んだ二人の子供、男の子と女の子と一緒に、哀れな毎日を過ごしている野原だったのです。
王子は人の声を聞きつけました。その声はどこかで聞いたことがあるような気がしました。そこで、声の方向へと歩いていきました。王子が近づくと、ラプンツェルは王子に気づきました。ラプンツェルは王子の首に抱きつき、泣きました。
ラプンツェルの涙が二滴、王子の目を濡らしました。すると不思議なことに、王子の目は元のように明るくなり、再び物が見えるようになりました。
王子はラプンツェルと子供たちを連れて、国に帰りました。国では、人々が大喜びで迎えてくれました。それから、皆は長い間楽しく、幸福に暮らしました。
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