赤い部屋
赤い部屋
江戸川乱歩
現代語訳:Relax Stories TV
奇妙な興奮を求めて集まった、7人の奇妙な男たち(私もその一人だった)が、わざわざ設えられた「赤い部屋」に、深紅のベルベットで覆われた肘掛椅子に寄り掛かりながら、今夜の話し手が不思議な物語を語り始めるのを待っていた。
7人の中央には、同じく深紅のベルベットに覆われた大きな丸テーブルの上に、古風な彫刻のある燭台に灯された3本の太い蝋燭が、ゆらゆらと微かに揺れながら燃えていた。
部屋の四方には、窓やドアさえ見えないほど、天井から床まで深紅の重厚な垂れ幕が掛けられており、ロマンチックな蝋燭の光が、まるで血の流れるような垂れ幕の表面に、私たち7人の大きな影を映し出していた。その影は、蝋燭の炎に合わせて、まるで巨大な昆虫のように、垂れ幕の曲線に沿って伸縮しながら這い回っているようだった。
いつも通り、この部屋は私に、まるで巨大な生物の心臓の中にいるような感覚を抱かせた。その心臓が、その大きさに見合った鈍い脈動を刻むのが感じられるようだった。
誰も口を開かない。私は蝋燭の明かりを通して、向かい側に座る人々の赤黒く見える影のある表情を、無心に眺めていた。その表情は、能面のように無表情で、まるで動くことのない人形のようだった。
やがて、今夜の話し手とされていた新入会員のT氏が、じっと蝋燭の炎を見つめながら、次のように語り始めた。私は、陰影で骸骨のように見える彼の顎が、話すたびにガタガタと物悲しげに動く様子を、まるで奇妙な機械仕掛けの人形を見るような気持ちで眺めていた。
私は、自分では確かに正気の積もりでいますし、人も私をそのように扱ってくれていますが、本当に正気なのかどうか分かりません。狂人かもしれません。それほどでなくとも、何らかの精神的な問題を抱えているのかもしれません。とにかく、私という人間は、不思議なほどこの世界がつまらないのです。生きているというだけで、もう退屈でたまりません。
初めのうちは、人並みに色々の趣味に耽った時期もありましたが、それが私の生まれつきの退屈を慰めてくれず、かえって、もうこれで世の中の面白いことはお終いなのか、なんてつまらないという失望ばかりが残るのでした。そして段々と、私は何かをするのが面倒くさくなってきました。例えば、これこれの遊びは面白い、きっと有頂天になれるだろうと聞かされても、まず頭の中でその面白さを想像してみるのです。そして、想像を巡らせた結果は、いつも「大したことはない」と軽んじてしまうのです。
そんな具合で、しばらくは文字通り何もせずに、ただ食事をとったり寝たりするだけの日を過ごしていました。そして頭の中だけで色々な空想を巡らせては、これもつまらない、あれも退屈だと片端から軽蔑しながら、死ぬよりも辛い、それでいて人目には何もない安易な生活を送っていました。
これが、毎日生活費に追われるような境遇なら、まだよかったでしょう。たとえ強いられた労働であっても、何かすることがあれば幸福です。あるいは大金持ちでさえあれば、歴史上の暴君のような贅沢な遊びにも耽れたかもしれません。しかし、それも叶わぬ願いだとすれば、私はもう、あのお伽噺にある物臭太郎のように、一層死んでしまった方がましな程、寂しくものういその日その日を、ただじっとして過ごすほかないのでした。
こんな風に申し上げますと、皆さんはきっと「そうだろう、そうだろう、しかし世の中の事柄に退屈し切っている点では我々だって決してあなたにひけを取りはしないのだ。だからこんなクラブを作って何とかして異常な興奮を求めようとしているのではないか。あなたもよくよく退屈なればこそ、今、我々の仲間に入ってきたのであろう。それはもう、あなたの退屈していることは、今更聞かなくてもよく分かっているのだ」とおっしゃるに違いありません。
ほんとうにそうです。私は何もくどくどと退屈の説明をする必要はないのでした。そして、あなた方が、そんな風に退屈がどんなものかをよく知っていらっしゃると思えばこそ、私は今夜この席に列して、私の変わった身の上話をお話しようと決心したのでした。
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